旅するサロン-A journey to discover the delicacies- Vol.01|那須  “バターのいとこ”|SALON adam et rope'

木漏れ日が優しく照らす森林の牧草地を、牛たちがのんびりと歩いていく。栃木県・那須のそんな牧歌的な風景のなかで生まれたのが、「バターのいとこ」。“ふわっ シャリッ とろっ”の3つの食感がおいしいゴーフレットは、関わる人たちすべてに“おいしい”を与えている、まさにサステナブルなお菓子。今回の「旅するサロン」では、生みの親である「GOODNEWS」の宮本吾一さんと「森林ノ牧場」の山川将弘さんを訪ね、その魅力を紐解いていく。

コンセプトは「GOOD LINKS, GOOD LIFE—よろこびの連鎖が豊かな食卓へ—」。那須で暮らす人々が地域の特性を生かしながら作った新銘菓「バターのいとこ」。牛乳からバターを作る際に大量に出来るものの、安価に販売されてしまう「無脂肪乳」の価値を高めるために誕生したこのお菓子は、ただおいしいだけではなく、酪農の可能性を広げ、雇用を作り、観光客を集め、地域全体をアクティブにする仕組みを生み出している。作り手、働き手、買い手、みんなが気持ちよくお互いをサポートし、エネルギーを循環させ、しあわせの輪を広げていく……。まさに“三方よし”なお菓子なのだ。

バターのいとこ 公式HPはこちら

大量生産の牛乳ではなく、地元で採れたおいしい牛乳から良質なバターをつくりたい。那須の酪農家、山川将弘さんのそんな願いが「バターのいとこ」のはじまり。「牛の種類や飼い方や季節によって異なる、その農家ならではの個性的なバターで、人々の食文化をより豊かにしたいと思ったんです」。しかし、これまで小規模な酪農家がバターを作るのは難しいとされてきた。バターは牛乳から4%しか採れず、残りの90%を占める無脂肪乳が、破棄されるか安価に販売されてしまうためだ。そこでまず「無脂肪乳を商品化しよう」という発想が生まれ、那須で「チャウス」というお店を営む仲間とともに開発したのが「バターのいとこ」。

その結果、小ロットでバターをつくれる仕組みが出来上がり、いまでは他の農家からバターづくりを請け負えるまでに。小さな酪農家がチャレンジしやすい環境が整ったのも大きな一歩だ。この他にも「バターのいとこ」は、環境に配慮し育てられたカカオを使ったチョコ味など、「生産者の課題を消費者が支える」という画期的な構図を実現させている。

最初は小さな工房で1日約300枚製造を目標にスタートした「バターのいとこ」。人気がどんどん高まり、現在では工場で1日約7000枚が作られ、今後も拡大予定だ。注目したいのは、障害者や主婦を積極的に雇用する仕組みを作り、さまざまな事情を持つ地元の人々が、短時間からフレキシブルに働ける貴重な機会を提供していること。これは「まわりの人たちをハッピーにすることが自分のハッピーにつながる」と語る、GOODNEWSの宮本吾一さんの考えからスタートした取り組み。

「どこかがいびつな感じで儲かったりするのではなく、関わる全員がいい状態になることを目指したいなと思っているんです。人のためを思うばかりだと枯渇するし、楽しくないことをやっていると疲れちゃう。みんなが気持ちよく動けるようにするのが、事業の最適化であり、“持続可能”なことなのかなと感じています」。固定観念にとらわれず、人に合わせた働き方を提案することで、その人たちのエネルギーを循環させる。それが、地方が抱えている人口減少や雇用の問題の解決にもつながっている。

数々の問題解決をしてきた「バターのいとこ」。でもその哲学だけでなく、シンプルに“美味しい” “かわいい”という魅力でも人々をハッピーにしている。牛のキャラクターがキュートなパッケージを開けると現れる、フランスの地方菓子ゴーフレットをベースにした新感覚のスイーツ。バターが香るふわっとした生地に、シャリっとした粗糖を混ぜたバタークリーム、無脂肪乳から作るとろっとしたミルクジャム……食感の変化を楽しめる、どこか懐かしい味わいだ。

レシピを監修したのは、宮本さんの友人でもある、代々木八幡のレストラン「PATH」の後藤裕一さん。商品コンセプトをしっかりと伝える、バターと無脂肪乳の割合を示した数字を入れたデザインは、宮本さんと親交のあるデザイナーが担当した。「信頼関係を築き、意識を共有してきた人とのプロジェクトだからこそ、トントン拍子で完成したのだと思います」と宮本さん。

人が集まる場所にしたい、という願いを込められて作られた複合施設「GOODNEWS」のカフェも、とても居心地がいい。この場所を中心に、きっとこれからも、人と人のつながりがよろこびの連鎖を生んでいくだろう。